ハリネズミ

[獣医師監修]ハリネズミのふらつき症候群の原因・症状・診断方法・治療方法

ハリネズミ特有の病気に、ふらつき症候群があります。

ハリネズミによくみられる腫瘍や皮膚の病気に比べてとても多いわけではありませんが、残念ながら治療法がなく、おうちでのケアが長く必要になることが多いため、ハリネズミを飼っている方にはぜひ知っていただきたい病気です。

ハリネズミがふらつくとき、原因としては神経系の腫瘍や炎症、椎間板疾患、耳のトラブル、中毒、低栄養、低体温などいろいろなことが考えられます。

原因によって治療法が違うので、すぐにふらつき症候群と決めつけずに、ていねいに原因を調べていく必要があります。

ハリネズミのふらつき症候群

ハリネズミのふらつき症候群(Wobby Hedgehog Syndrome、WHS)は、脱髄性麻痺とも言い、まひがゆっくりと進行していく神経の病気です。

脳や脊髄にある神経細胞は長いしっぽで他の神経細胞と連絡しているのですが、そのしっぽが髄鞘というさやに包まれることで素早い神経伝達が可能になっています。

ハリネズミのふらつき症候群では、このさやが徐々に無くなっていき(脱髄)、神経伝達のスピードがだんだん落ちて、まひが進行してゆきます。

脱髄が起きる原因としてウイルスや遺伝、栄養など様々な角度から研究されていますが、いまだ解明されておらず、治療法も見つかっていません。

症状

2才以下で発症することが多いと言われていますが、さまざまな年齢で発症する可能性があります。

最初はつまづきやすくなる、歩き方がよろめいたりギクシャクした感じになる、ふるえる、丸まった体勢がとりずらくなる、などの症状からはじまり、良くなったり悪くなったりを繰り前しながら徐々に進行していきます。

まひは後ろ足から始まることが多く、数か月から数年かけて前足や全身に広がります。

背中が曲がってきたり、筋肉が委縮して痩せてゆきます。

まひが後ろ足だけのときは前足だけでなんとか歩くことができますが、まひが進むと寝たきりになります。

最終的には食べたり呼吸したりすることができなくなり、衰弱して亡くなります。

発症してから1~2年以内に亡くなることが多いと言われています。

診断方法

確定診断には病理組織検査で脳や脊髄に脱髄が起きていることを確認する必要があるのですが、場所が場所だけに生前に行うことができないので、同じような症状を示す他の病気をひとつひとつ除外して、ふらつき症候群にしぼっていくような診断方法になります。

まずは飼育環境を見直して、低体温や低栄養や外傷が起こる状況がなかったかを確認します。

寒さが苦手なハリネズミは、秋頃の少しの気温低下でも低体温症を起こすことがあるので、室温が25℃よりも下がるようなことがあったら低体温を疑います。

食事の内容も偏りが無いか確認します。

産後の低カルシウムなどもふらつきの原因になるので注意が必要です。

高いところから落ちたり、何かにぶつかったりしなかったかも確認します。

耳をチェックして中耳炎などのトラブルがないかを調べます。

レントゲン検査で関節炎や骨折、椎間板疾患がないかを確認します。

血液検査では低血糖や低栄養、低カルシウムの有無を調べます。

肝臓や腎臓の機能不全があると有害な物質が体内に貯まり、神経症状が出ることがあるので、肝臓や腎臓の状態も確認します。

また実施できる病院は限られますが、頭部のCTやMRIを行うこともあります。

このような検査でふらつきを起こす病気をひとつひとつ否定していき、最後までふらつき症候群が残ったら臨床的にふらつき症候群と診断します。

必要であれば確定診断は死後の病理解剖で行います。

一見同じように見えるふらつきの症状でも、原因によっては治療可能なものもありますので、しっかり検査して原因を探ることが大切です。

治療方法

内科的な治療として、ビタミン剤(特にB群)やステロイド剤を使用することもありますが効果は限られています。

残念ながら完治させるための治療法がないため、本人が楽に生活できるようなケアが中心になり、飼い主さんの役割がとても重要です。

ふらつきながらも自力で食べることができるうちは、水や餌台の高さなどを調整したり、タオルや段ボールなどで体を支えてふらつきを抑えながら飲食できるようにします。

ふらつきのせいで食欲があっても食べられていないことがあるので、食事量が減っても食欲が落ちたと判断せずに、食事の介助を試みてください。

麻痺が軽くて自力で歩行できるときも、手足の力は弱って滑りやすくなっているので、丈の低い人工芝など滑りにくい床材に変えるのも良いかもしれません。

寝たきり状態になると寝返りや自力で飲んだり食べたりが難しくなります。

やわらかいものの上に寝かせて、数時間おきに体の向きを変えたり、水や食事も本人の状態に合わせた介助が必要になってきます。

まとめ

闘病生活が長く、おうちでのケアが中心になるため、飼い主さんの負担が大きい病気です。

症状の進行に合わせてケアの内容も変えていかねばならず、試行錯誤が必要ですが、適切にケアできると闘病中でも快適に過ごすことができます。