ハリネズミ

[獣医師監修]ハリネズミの様々な腫瘍の原因・症状・診断方法・治療方法

ハリネズミは腫瘍の発生がとても多い動物です。

もともと腫瘍ができやすい性質を持っているうえに、長生きするハリネズミが増えてきたことも関係しているかもしれません。

生涯のうち複数の腫瘍を経験することもあります。

ハリネズミと暮らしていると遭遇することの多い腫瘍について、わかりやすく解説したいと思います。

ハリネズミの腫瘍

ハリネズミの腫瘍は、発生する部位も腫瘍のタイプもさまざまです。

腫瘍には良性と悪性があるのですが、残念ながらハリネズミの腫瘍の8割が悪性(=癌)という報告もあります。

悪性のものでも早期に発見して切除すれば完治する可能性もあり、いかに早く見つけるかが鍵になります。

中年以降に発症が多くなりますが、1歳代の若いハリネズミにもみられることがあり、若いから大丈夫と思わずに注意深く観察しましょう。

ここではさまざまなハリネズミの腫瘍のうち、比較的よくみられるものについて解説します。

皮膚の腫瘍

ハリネズミの腫瘍のうち、いちばんよくみられるのが皮膚の腫瘍です。

皮膚にできる「しこり」なので、体の中にできるものより発見しやすいのですが、ハリでおおわれている上に丸まってしまってなかなか触らせてくれない子は、麻酔下でないとわからないこともあります。

皮膚には本当にさまざまな種類の腫瘍ができますが、よく見られるものには扁平上皮癌、組織球肉腫、線維肉腫、肥満細胞腫、皮膚型リンパ腫などがあります。

メスのハリネズミには乳腺腫瘍も良くみられます。

腫瘍の種類によってしこりの形や進行の様子は違いますが、悪性のものは大きくなるスピードが速く、出血したりジクジクしてくる傾向があり、しこりが大きくなるのに反して本人はやせてゆきます。

診断方法

診断はしこりに針を刺して細胞をとり、顕微鏡で観察して(針生検といいます)、まず炎症なのか腫瘍なのかを区別します。

一部の腫瘍では針生検で腫瘍の種類や悪性度が判断できることもありますが、針生検で得られる情報には限界があり、手術で切除したしこりの病理組織検査を行って初めて診断がつくことも多いです。

超音波検査やレントゲン検査で転移があるかどうか調べたり、血液検査で手術のリスクを評価します。

治療方法

ハリネズミの抗がん治療はまだ確立されておらず、治療は手術で切除するのが基本です。

大きくなると手術の負担やほかの臓器へ転移するリスクが増えるので、なるべく早期に発見して切除するのが理想です。

悪性腫瘍は切除後も再発のリスクがあり、気をつけて経過を見ていく必要がありますが、良性の腫瘍は切除して完治ということもあります。

子宮の腫瘍

皮膚の腫瘍に次いでよく見られるのが子宮の腫瘍です。

メスのハリネズミが血尿をしたり陰部から出血した場合は子宮が原因のことがほとんどです。

子宮にできる腫瘍には、子宮腺癌や、子宮内膜間質肉腫、線維肉腫などいろいろな種類があります。

症状

血尿や陰部からの出血で気づくことが多いです。

長期にわたって少しずつ出血することもあれば、突然大量の出血を起こすこともあります。

出血の程度によって貧血になり、歯茎や舌、耳の色が白っぽく見えることがあります。子宮が腫れるため、見た目におなかが大きくなったように見えることもあります。

診断方法

診断はまず触診で、子宮の腫れを確認します。

レントゲンや超音波検査でより詳しく子宮の状態を調べたり、他の臓器へ転移が無いかを調べます。

血液検査で貧血や内臓の状態を調べ、手術に耐えられるかを判断します。

治療方法

手術で子宮と卵巣を取ります。

卵巣が腫瘍化することは少ないのですが、のう胞などの異常を起こしていることも多く、通常卵巣と子宮を同時に切除します。

切除した子宮の病理組織学的検査で腫瘍の種類を特定することができます。

口腔内腫瘍

ハリネズミの口の中に腫瘍ができることも非常に多く、扁平上皮癌をはじめ、悪性黒色腫、エプリス、骨肉腫などさまざまな腫瘍がみられます。

歯周病でも歯茎が腫れてしこりのように見えることがあるため、歯周病が疑われるときも注意して経過を見ていく必要があります。

症状

口臭やよだれが増えたり、口から出血したり、食事を選り好みしたり、食べずらそうにしたりします。

進行すると歯が抜けたり、しこりが口からはみ出るように大きくなって口が閉じられなくなったり、顔が変形することもあります。

診断方法

まずしっかり口の中を観察し、針生検や可能であれば一部を切り取って病理組織検査を行います。

口の中の腫瘍はあごの骨にも及んでいることが多いので、レントゲン検査で骨への浸潤を確認し、同時にほかの臓器へ転移があるかどうかも確認します。

治療方法

ハリネズミの口の腫瘍についても抗がん剤の有効性は確認されておらず、切除が基本となりますが、骨へ浸潤があるときは難しい判断になります。

骨まで浸潤している場合は、あごの骨ごと切除するのが理想なのですが、顔が変形したり、自力で食事ができなくなって生活の質が下がってしまうこともあります。

完治を目指さず、部分的な切除やレーザーで焼くという対症的な方法を繰り返して、生活の質を保っていくということも選択肢になります。

まとめ

腫瘍は早期発見がとても大切な病気です。

小さいうちに発見して切除ができると、手術の負担が少なくなる上に転移のリスクも減らすことができます。

本人の性格にもよりますが、可能であれば小さいうちから体を触るトレーニングをして、飼い主さん自身で日常的にしこりのチェックができるといいですね。